忘備録 【ソ連文化史に関して】

今は主にショスタコーヴィチ関連。

「廃墟」の設計図

さっさとヴォルコフの『証言』を読み始めればいいのに、新しく図書館で借りてきた本に手をつけてしまいました。

2011年に出版された、『ロシア文化の方舟 ソ連崩壊から20年』という本です。

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これは、様々なロシア/ソ連文化・芸術を専門としている研究者さんたちによる、論集です。

その内容は多岐にわたり、アヴァンギャルド建築から文学(所謂「芸術文学」から「手書き恋愛小説」まで)、ポピュラー音楽、食文化、実験演劇などから、なんと呪術まで!様々なものを含んでいます。

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まだ、前書きと、最初の建築の論文しか読んでいないのですが、とても面白いことを知りました。

ソ連時代の建築家によって描かれた、「廃墟の設計図」なんてものがあるんです。

おかしくないですか?廃墟って、設計するものではないですよね。遠い昔に建設された建物が、朽ち果て、建物としての機能を果たさなくなってもなお残っているものが廃墟であって、最初から廃墟なんてことは、本来、おかしいです。

でも、この「廃墟の設計図」は、ペーパー・アーキテクチャといって、実際の建築を前提としないコンペティションに提出されたものでした。

これは、混沌とした建築事情のあったソ連時代に、「建てる」とはどういうことなのかを考え抜いた建築家だからこそ表現できた、「建てる」ことに付随する闇の側面である、建築物の「破壊」や「忘却」でした。

じっさい、ソ連では、ソヴィエト宮殿(結局は建設作業が進むことはなく、途中でポシャりましたが…)の建設のために、教会をダイナマイトで破壊するなんてこともしていました。

現在、ロシアのモスクワには、モスクワ・シティという、近未来的なデザインの巨大なタワーがあります。おそらく2010年か11年?頃に完成したと思います。

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(東京の中心部の高層ビル群やスカイツリーに見慣れている人々にとってはどうってことのないデザインに見えるかもしれませんが、ロシアにこのような建築物が建ったのはかなり革命的だったと思います。当然、反発も多くありました。)

一方、同じモスクワで、「廃墟の建設」が実現されている場もあり、ボロボロになってしまった地下室などを、あえてそのまま使ってレストランになっている、なんてこともあるそうです。

新しい建築物としての近未来的な「モスクワ・シティ」、そして建物が必ずいつか迎える運命である破壊を目に見える形に残した「廃墟レストラン」。これらが共存しているのがモスクワという街です。

建築物に限らず、ロシア文化は、こういった二面性(もしかしたら多面性?)を無視して語れないものなのかもしれません。

 

参考: 本田晃子「現代ロシア建築の二つの貌」

 

追記:モスクワ・シティの観光について

旅行でモスクワへ行くときに、優先的にオススメしたい観光スポットではありません。色々回って時間に余裕があるなら行ってみても悪くないかもしれませんが、観光地としては、正直言って何も面白くない場所です。(建築に興味があって、モスクワ・シティを一目見たい、とかなら話は別ですが・・・)

中身は、どこにでもあるチェーンの店舗などがあるだけです。わざわざモスクワ・シティに行かずとも、そこらじゅうにある商業施設と何ら変わりはないので、限られた日数で旅行をするなら、モスクワ・シティで時間を無駄にしないほうが良いと、個人的には思います。笑

ロシアのチェーン店舗などを見たいなら、どこかの観光地を回った時に、ついでにその近くにある商業複合施設を見てみるのが良いと思います。赤の広場を観光するとしても、そのすぐ近くにそういうものがあります。商業複合施設は、日本のショッピングセンターと同じように、どれも同じような中身です。